教養教育部門

岡山大学における教養教育の基本方針

 目次

    1.教養教育改革の必要性

    2.教養教育の理念とその具現

    3.新しい教養教育科目群

    4.単位修得の枠組み

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1.教養教育改革の必要性                                   

 グローバル化する知識基盤社会にあって、国際的通用性を備えた質の高い教育を行うことは強い社会的要請になっている。大学において育成すべき人材は、諸学問の基本的な知識を習得するだけでなく、知識の活用能力や創造性、生涯を通じて学び続けるために必要な基礎的な能力を獲得することが重視されなければならない。こうした能力を持ってはじめて多様化・複雑化する課題を、グローバルなレベルで協働しながら、能動的・主導的に克服する主体となり得るのである。

 岡山大学はこのような現代社会の要請に鑑み、ディプロマ・ポリシー(DP)として「教養」「専門性」「情報力」「行動力」「自己実現力」という5つの要素を定めた。つまり、岡山大学は「人間性に富む豊かな『教養』」の育成を学士課程教育の方針に位置づけ、教養教育を重視することを宣言したのである。

 しかしながら、大学設置基準の大綱化、教養部の解体以来、大学における教養教育は様々な課題に直面してきた。岡山大学にとっては、教養教育の目標とカリキュラム構成原理の関係、教養教育科目と専門基礎科目の関係、主題科目と個別科目の関係の不明確さ、実施体制の組織的脆弱さ、授業と成績評価の改善をめぐる問題等の教養教育の質保証に関わる課題が指摘されてきた。これらの課題を解決しながら、現代社会が求める教養教育へと改革を進める必要がある。

 一昨年、これらの課題を乗り越え、よりよい教養教育を実践するための新たな改革案が策定され、平成27年度実施を目指して準備が進められてきた。その要点は、1)従来の主題科日と個別科目を統合・整理する、2)実践・社会連携科目を取り入れる、3)クロス履修制を実施する、4)高年次(3・4年次)履修教養教育科目を導入する、である。

 この度、この改革案の実施開始年度を平成28年度に延期したことを機に、この案を基盤にしつつ、各学部から聴取した意見もふまえて見直すべき部分を修正し、より具体化させたものが本基本方針である。なお、この基本方針は、教養教育のあるべき姿・理念とそれに見合う科目成・履修方法を中心とし、組織、実施体制等は別途検討する。

2.教養教育の理念とその具現

(1)理念策定の基盤

 岡山大学における教養教育の理念の構築のため、これまでの実施経験、検討内容を基盤にしつつ、戦後日本の教育改革の歴史とそれに関連したいくつかの提言、日本学術会議や中央教育審議会答申(特に平成20年の「学士課程教育の構築に向けて」)、経済同友会提言、教育再生実行会議の指摘等を参考にし、同時にグローバルな観点から欧米の教養教育の内容も視野に入れながら検討を進めた。さらに、岡山大学のディプロマ・ポリシーとの整合性も重視した。

 この中から、「教養」という言葉が二つの意味に使われていることが明らかになった。狭義の「教養」は幅広い知識であり、人文社会、自然科学、生命科学についての幅広い知識や専門領域の基礎的知識を指す。広義の「教養」は上記の幅広い知識に加えて、汎用性のある言語能力やIT知識の他、特に社会生活に求められる実践的な態度・志向性、とりわけ市民的教養と呼ばれる倫理的態度や、創造的な感性と知性が含まれている。本学が目指すべき教養教育は、広義の教養を涵養するものでなければならない。

(2)教養教育の理念

 岡山大学の教養教育は、人類がこれまで継承し発展させてきたリベラル・アーツの根本的精神を受け継ぎつつ、同時に近年の社会の要請に応えるために、豊かで創造的な感性と倫理的社会的な品性を涵養する。他方で専門知識の基礎的素養と汎用的技能を習得し、専門知識を体系的全体的に俯瞰できる総合的知識を付与し、自らの知的拠り所を常に探求しつつ、生涯に亘って現代社会の課題の解決に積極的に取り組む人材の育成を追求する。

 この視点に立って、岡山大学の教養教育=リベラル・アーツを以下のように定義する。

岡山大学の教養教育=リベラル・アーツ

幅広い豊かな(リベラル)知性と感性、新たなパラダイム転換を志向する創造的で自由な(リベラル)発想力を持ち、自らの知的拠り所を探求しつつ、現代の社会と自然の全体へ、バランスの取れた寛容(リベラル)な社会倫理をもって、実践的に働きかける知性を育成する教育

(3)教養教育改革の要点

 上記の教養教育の理念を具現するため、以下の基本的な方針に従って改革を進める。

1)教員中心の授業科目編成から、教養教育の理念、目標(教養教育DP要素)に則った体系化された授業科目編成に変換する。

2)専門基礎科目と教養教育科目を明確に区別し、「より純化された教養教育」を構築する。

この観点から、専門基礎科目は、専門教育科目に属するものとし、「より純化された教養教育」とは、「岡山大学の教養教育=リベラル・アーツ」の考え方に基づくものとする。

3)現代世界が提示する多様な諸問題への関心を呼び起こし、人類が過去から蓄積してきた知の拠り所への学びを通じて、学生が自らと世界とのかかわりを常に生き生きと自覚するのを助ける科目設定を行う。

4)社会の現場が直面している問題を知的・感性的に深く理解し、課題を選別して、予測不能な課題の解決を可能にする種々の能力を育成するため、社会と連携した教育を推進する。

5)創造的感性を育てるため、アート教育の要素を取り入れる。

6)幅広い知識の習得のため、専門の枠を越えた科目の履修(クロス履修)を義務づける。クロス履修対象科目は、その目的に相応しい内容を提供する。

7)高年次教養教育科目を設定する。特に学部高年次において説得的・論理的な文章を作成する能力、言語力、ICT等を含めた高度なコミュニケーション能力を育成する。

(4)教養教育科目と専門基礎科目との区別

 「より純化された教養教育」を構築するために、教養教育科目と専門基礎科目とを以下のとおり定義づける。

教養教育科目とは、学生自身の専門に偏ることのないよう幅広い学問分野の基礎的知識や技能を、非専門の一般化した観点から学び、人文・社会科学系、生命科学系、自然科学系等学生の所属学部に関わらず、複数の学部学生が理解できる授業内容を含む科目である。

 専門基礎科目とは、専門科目を学ぶ上で必須の基礎的知識や技能を学ぶものであり、特定の学部学生に特化した授業内容を含む科目である。

(注:特定の学部学生対象ではなく、文系または理系学生全般の基礎教育として必要な授業内容の科目を人文・社会科学系、生命科学系、自然科学系の科目として位置づけ、設定することは妨げない。但し、単一学部の学生のみのクラスを設定するなど、専門基礎的科目とならないよう配慮する。)

(5)クロス履修の意義とそのための科目設定

 クロス履修とは、異分野の基礎的知識や技能の強化を図ることを目的として、学生が自身の専門分野以外の授業科目を履修することであり、具体的には、人文・社会科学系学生が自然科学系分野や生命科学系分野の授業科目を、生命科学系学生が人文・社会科学系分野や自然科学系分野の授業科目を、そして自然科学系学生が人文・社会科学系分野や生命科学系分野の授業科目を履修することをいう。クロス履修により、ともすれば自身の専門分野の知識を得ることのみに力を注ぎがちであった学生の履修状況を改め、より幅広い教養を育む。

 クロス履修を推進するために、文系学生のみを履修対象とした理系科目や、理系学生のみを履修対象とした文系科目も新たに設定する。

 本学では、教養教育科目のうち、より特定的・焦点的な授業内容のものを「教養科目」、基本的で広範な内容のものを「教養基盤科目」と定義する。例えば、文系学生のみを履修対象とした理系科目等は基本的に「教養基盤科目」に分類される。

(6)高年次教養教育科目の設定

 教養教育は、各専門分野に必要とされるリベラル・アーツ的教養を身につけ、視野を広げるものであることから、本来、専門教育と並行して教養教育も行われるべきである。従って、従来、1、2年次で完結させていた教養教育科目の履修システムを拡大し、専門的素養を習得した3、4年次生(高年次生)に対しても、専門教育以外に必要とされる知識や能力を与える教養教育科目を高年次教養教育科目として設定し、学生の習熟度と関心に応じた段階的教養教育を実施する。

 履修対象学生は3、4年次生を基本とするが、定員に余裕がある場合、1、2年次生が履修することを妨げない。

(注:高年次教養教育科目の授業は、基本的に各学部の専門教育の時間帯に実施することとし、授業内容並びに授業担当者については当該学部と教育開発センター間で協議する。)

3.新しい教養教育科目群

教養教育科目構成

(1)教養教育科目の構成と岡山大学DP要素との関連

 教養教育科目をⅠ~Ⅴのように構成し、岡山大学DP要素(各要素に該当する教養教育DP要素も明記)との関連を図示した。なお、教養、専門性、行動力、情報力、自己実現力の5つの要素と教養教育科目間とを直線で結ぶことで相互の関連を表す。

 なお、科目の編成にあたっては、クォーター制・60分講義制の導入に合わせて、1科目2単位の原則にとらわれることなく、教育内容に適した柔軟な単位構成とする。

教養科目とDP要素

 

(2)知的理解

 現代世界が提示する多様な諸問題への関心を呼び起こし、人類が過去から蓄積してきた知の拠り所への学び(古典知)を通じて、自らと世界とのかかわりを常に生き生きと把握する知的理解力を養う。講義科目には、現代的問題に焦点を合わせた科目と、より広範な基礎的テーマの科目を設定する。尚、クロス履修対象科目は以下の3つの知的理解グループの中に設定する。

1)現代と社会

 社会のグローバル化のもとに、急激に変貌する現代社会の具体的実像に触れる。とりわけ、政治・経済・社会・文化・思想・宗教等の分野で進行する知識の断片化を克服し、現代社会の全体像を理解する。

2)現代と生命

 科学技術の急速な進歩による生命科学の最先端分野での発展を、その研究の歴史的展開を踏まえて、具体的に理解する。また、医療生命科学分野の全体像を把握する。

3)現代と自然

 科学技術の急速な進展と自然界の解明の現状を理解する。また、人間による自然環境破壊と環境再生の実像に触れ、自然に対する全体的・原理的理解に努める。

(3)言語

 言語の深い修得を通じて、言語の持つ価値や多様な世界観を理解し、グローバル社会を洞察する力や社会に情報を発信するコミュニケーション力を養う。

1)英語

 「話す・読む・書く・聞く」全ての能力の向上を図ることにより、実践的な英語コミュニケーション力を身につける。また、学生が各自の専門分野を研究する際、躊躇することなく研究を展開できる外国語能力を養う。さらに、英語で表現された様々な思想や思考に触れることにより、異文化及び多文化理解を深める。

2)初修外国語

 英語以外の外国語を学習することにより、言語に対する関心を深めるとともに、異文化理解を含めて、より広い視点から事物を捉える力を養う。

3)日本語

 留学生が日本語を学ぶと同時に、日本文化、ひいては自国文化に対する理解を深める。 

(4)実践知・感性

 時代と社会をリードする行動力と創造力を生み出し、豊かな感性を育むために、実践知と芸術知を養う。

1)実践知

 キャンパスを超えた生活の現場を体験し、社会・企業の現場が直面する問題を解決するために必要な実践知(市民的教養に裏付けられた判断力、リーダーシップ、チーム力、責任・気概)を養う。

2)芸術知

 優れた芸術作品の能動的な鑑賞やアート創造の現場への参加によって、創造性と豊かな感性を養う。この芸術知の涵養は、通常の教養科目の履修によるほかに、キャンパス内外の多様な芸術的イベントへの参加を通じて達成される。

(5)汎用的技能と健康

 学問の追求に加えて、学生生活を充実させて社会へ向かうために必要な知識・技術及び能力を養う。また、これらの土台ともいえる健全な心身を築く。

1)情報教育

 大学における研究や教育をはじめ、社会人になる上で必須とされる情報リテラシーやICT能力などを修得する。

2)キャリア教育・学生支援

 学生生活を充実させるために必要な知識を身に付けるとともに、将来を選択・設計するための知識や能力を獲得する。

3)健康・スポーツ科学

 健全な心身の維持・増強のために必要な知識や習慣を身に付ける。また、スポーツ教育や身体知に関する知識と技能を修得する。

(6)導入教育

 導入教育とは高等学校から大学への円滑な移行を促すことや、入学後の教育効果をより高めることを目的として、学生に提供される正規課程に付随した教育プログラムをいう。

岡山大学では、導入教育として以下の「補習教育」「学部ガイダンス」「全学ガイダンス」を設定する。

1)補習教育

「初等数学」「初等物理学」「初等化学」「初等生物学」の4科目を高大接続科目として設定し、高等学校の当該科目の未履修者を主な対象とする。既修者で履修を希望する者についても、定員に余裕があれば、履修を可とする。

科目は、「修了」の評語をもって単位を授与する。ただし、卒業要件単位とはしない。 

2)学部ガイダンス

各学部が所属学生を対象として開講するもので、大学で主体的かつ能動的に学ぶために必要なスタディ・スキルやコミュニケーション・スキルを学習する。

(注:授業内容については、全学ガイダンスとの重複を避ける。)

3)全学ガイダンス

学部に関係なく、大学として初年次に習得しておくべき全学必修科目を全学ガイダンス科目として設定する。

(注:「社会人マナー」「ハラスメント」「メンタルケア」「図書館の使い方」「身体と健康」「キャリア」等をオムニバスに組み合わせた授業科目であり、1単位の必修科目とする。)

4.単位修得の枠組み

教養単位数モデル

(注:以下はあくまでもモデルとして例示したものである。但し、卒業要件単位における教養教育科目の修得単位数は30単位程度とする。)

(1)必修科目

 以下の教養教育科目を必修科目(計16単位)とする。

・知的理解: 6単位を必修とする。但し、3つの知的理解グループ(現代と社会、現代と生命、現代と自然)のうちから、それぞれ2単位の計6単位を必修とする。

(注:このことにより、学生は自身の専門分野以外の授業科目を4単位分、自動的にクロス履修することになる。)

・言語: 英語系科目(総合英語1~5)の6単位を必修とする。

・汎用的技能と健康: 情報リテラシー系科目(1単位)を必修とする。

・導入教育: 学部ガイダンス(2単位)及び全学ガイダンス(1単位)を必修とする。   

(2)選択必修科目

 上記必修16単位以外に、選択必修科目として14単位以上を修得することとし、卒業要件単位における教養教育科目の修得単位数を30単位程度とする。

(注:例えば、「人文・社会科学系科目」を4単位修得した場合、そのうちの2単位を必修科目の単位とし、残りの2単位を選択必修科目の単位とすることができる。)

(3)高年次教養教育科目

 高年次教養教育科目の修得単位数は教養教育科目の中に含まれる。